アンキローシス歯の矯正治療と成長期の顎顔面発育管理 (日本舌側矯正歯科学会 第一講演)

2025-11-23 3:54:49 seminar

録音の種類

講義・セミナー

話者

  • (講師)
  • (座長)
  • (質問者A)
  • (質問者B)
  • (質問者C)

はじめに (講師自己紹介)

(講師) * 福岡歯科大学出身、九州大学病院矯正科で学位取得。 * ヨーロッパとアライナー矯正歯科学会 (EOS関連団体) の認定取得。 * 宮城県出身、実家も歯科医院。 * 筑波大学で心理学を学び、イギリス留学で英語とデザインを学ぶ。 * 武蔵野美術大学を卒業後、デザイナーとして無印良品、森ビル、GCプロソリサイスセンターのサイン計画などを担当。 * 30歳で福岡歯科大学に編入、学生時代はフリーランスデザイナーとして活動。 * 現在は福岡MA矯正歯科を赤坂で開業。グループ全体が個人事業主の集まりで運営。 * アライナーに関する無料オンライン配信を毎月実施 (クイントに掲載)。 * 『インビザライングローバルギャラリー』に治療症例を掲載。


第一部: アンキローシス歯の矯正治療とチームアプローチ

1.1 アンキローシス歯の臨床的課題と予後

  • アンキローシス歯は矯正治療単独での完了が困難。インターディシプリナリーなアプローチが必須。
  • 福岡では技工士の月山哲也先生、アテンディングの先生とのチーム医療が重要。
  • 歯根吸収(痴根性骨吸収)を起こした歯の症例。
    • 一度完全に脱臼して再植された歯は、アンキローシスを起こしやすく、その後、痴根性骨吸収や炎症性外部吸収によって歯根が短縮する傾向がある。
    • Scientific Reports 2020年の報告:脱臼・再植された49歯のうち、良好に治癒したのは26%。約7割の歯は歯根が失われ、将来的には欠損部への補綴が必要になる。

1.2 症例1: 上顎前歯の脱臼・再植による歯根吸収を伴う叢生・インプラント治療併用

  • 患者: 18歳 男性
  • 主訴: 上顎前歯の著しい動揺、咀嚼困難、口唇閉鎖不全。
  • 既往: 小学校時に交通事故で上顎中切歯を再植。その後アンキローシスが発生し、歯槽骨の成長がない。
  • 口腔内所見: 著しいエクセッシブカーブ・オブ・スピー、咬合平面のずれ。上顎中切歯は歯根がほぼなく、著しい動揺。
  • セファロ分析: AMB 5.4度、FMA 12度(ローアングル傾向)。骨格性Ⅱ級。
  • 問題点: 上顎中切歯の歯根欠損、歯槽骨成長不全による咬合平面の大きなずれ、骨格性Ⅱ級。
  • 治療計画の検討:
    • 上顎4番抜歯、欠損部への再植・メリーランドブリッジによる補綴。
    • 遠心移動後、欠損部へのインプラント埋入。
    • マルチブラケットの場合、2番3番を近心に寄せスペース閉鎖。
    • アライナーでは歯根移動量に限界があるため、インプラントプランが現実的。
  • 最終治療選択: 患者は将来的な成長も考慮し、インプラント治療を選択。
  • 治療の流れ: 矯正治療先行(リファインメント含む)→ 歯列安定後インプラント手術(CTG含む)→ 最終補綴物装着。
  • 矯正治療プロセス (14ヶ月):
    • 左上1番の歯根欠損により、上顎全顎遠心移動が比較的容易。
    • 顎位不安定のため、前方誘導を促すような運動も併用。
    • ゆっくりゴムをかけながら移動。
    • 治療中に抜けてきた前歯にはポンティックを装着。
    • モチベーション低下による追加アライナーを経て、ミニスクリューインプラント埋入可能な状態へ。
    • スピーの彎曲改善、犬歯・臼歯関係のコントロール、咬合平面の改善。
  • 外科治療と補綴:
    • 月山哲也先生へ手術依頼。GBR、クラウンレングスニングを実施。
    • 二次手術時にCTG(結合組織移植術)を行い、ボリュームを確保。
    • 最終補綴物装着。
  • 治療結果: プロファイルの改善、笑顔時の前歯露出の改善。下顎後退傾向の改善。軟組織処置とクラウンレングスニングにより審美的なスマイルライン獲得。

1.3 症例2: アンキローシス歯を伴う開咬・一塊での歯槽骨切除移動による治療

  • 患者: 22歳 女性
  • 主訴: 出っ歯、口が閉じづらい、前歯で物が噛めない。
  • 既往: 右上中切歯のアンキローシス、開咬。過去に他院で矯正治療(上顎4番抜歯済み、フィックスリテーナー装着)を受けたが、アンキローシス歯は動かなかった。ピンクセラミック冠が装着されている。
  • 口腔内所見: 開咬残存、ピンクセラミック冠(歯肉ラインの不整)、上顎中切歯・側切歯の歯間サイズ不一致。
  • セファロ分析: AMB 4.7度、Wits値マイルドな骨格性Ⅱ級。FMA 38度(オープンバイト(開咬)、ロングフェイス)。
  • パノラマ・CT: 上下顎小臼歯から小臼歯間は歯根吸収が進み短根状態。右上中切歯(アンキローシス歯)は歯根吸収が見られるが、ワイヤーの力に耐える固定度があり、即時抜歯は不要と判断。
  • 治療計画:
    • 上顎中切歯・側切歯の近遠心に骨切り用スペースを作成。
    • 一塊での歯槽骨切除移動術(Surgically Assisted Orthodontic Tooth Movement)。
    • 文献的背景:
      • Angle Orthodontist 2010: 骨切り線を入れた状態でワイヤーで動かす手法。
      • AJODO 2012: 骨移植を併用し、骨ごと歯を外科的に移動させる手法。
      • 堀内先生の指導: 口蓋側を剥離せず、血流を確保しながら唇側で骨切りを行うことで壊死リスクを低減。
  • 矯正治療プロセス (アライナー21ステージ):
    • アンキローシス歯以外の歯を移動させ、対象歯の両隣在歯間に骨切り用スペースを作成。
    • クリンチェック上でオペシミュレーションを行い、最終ステージで2本の歯を外科的に移動させる計画。オーバージェットを適切に確保。
    • 小臼歯舌側の咬合も考慮し、舌側にボタンカットを入れ、非手術歯の咬合を確保。
    • 患者のコンプライアンス改善後、10ヶ月で手術可能な状態に。
  • 外科治療 (月山哲也先生):
    • クラウンレングスニング、プロビジョナル装着。
    • フラップを開け、歯槽骨の骨切り(唇側・口蓋側)。
    • 口蓋側のフラップ付着を維持し、血流確保を最重視(壊死リスク回避)。
    • 歯を移動させ、空いたスペースにボーングラフトを充填。
    • CTG(結合組織移植術)による歯肉ラインの整形。
    • 固定。
  • 術後矯正 (追加アライナー):
    • 術後2週間: 歯肉ラインが整い、歯列も改善。正中のずれは残存。
    • 骨癒合(約3ヶ月)を待ち、スキャン後追加アライナーを製作。
    • 術後3週間から矯正的移動を開始。
    • 左上1番の左側移動、右上1番のプロビジョナル調整。IPRも活用し、最終咬合を整える。
    • 18ヶ月後、治療終了。最終補綴物をセット。
  • 治療結果: オペ前の開咬・叢生、歯肉ラインの不整が改善。最終的に審美的で機能的な咬合を獲得。
  • 予後: 2年半経過後も安定。再植歯の歯根吸収による脱落リスクは成人で平均6~7年とされるが、炎症コントロールにより10~20年持つ可能性もある。若年女性の長期的な審美性を考慮し、インプラント埋入時期を遅らせる判断。

質疑応答 (講演1)

  • (質問者A): 骨切り術のタイミングについて。早めに動かせる可能性や、咬合関係、スキリング後のアライナー装着のタイミングはどうか?
  • (講師):
    • 外科的侵襲による歯槽骨への損傷は唯一エビデンスのある加速矯正だが、今回は前歯部のみのため、臼歯部の加速は期待できない。
    • 通常1週間交換のアライナーを3日~4日交換で進めることも可能だが、そのためには臼歯部のコルチコトミーも必要。
    • 今回は審美的な回復を重視し、安全を期して準備をしっかり行ってからオペに臨んだ。
    • オペ後のアライナー移動は、当初計画通りにいかないため、スキャンし直して追加アライナーを作成した。オペ後3週間で矯正力を加えた。
  • (質問者B): アンキローシス歯を歯槽骨ごと移動させた後の予後について。脱落や壊死のリスクは?
  • (講師):
    • 2年半経過で安定している。
    • 再植後の炎症コントロールが重要で、骨内で炎症がない状態であれば10~20年持つ可能性もある。
    • 平均的には6年後に脱落する可能性もあるため、将来的なインプラント埋入の時期を遅らせる処置と捉えている。
    • 20~30代女性の前歯の審美性を考えると、自分の歯で歯のラインを整える方がベターと判断した。

第二部: 成長期における顎顔面発育管理とデジタル技術の応用

2.1 矯正治療と成長期の顎顔面発育

  • (講師) 「口元の女の子」の症例(SNA, SNB正常範囲、AMB 2.52度、アングルクラス2、上顎前突)
    • 従来の矯正理論では、8〜10歳のアングルクラス2はSNAが大きくなく、下顎骨が後方で、ローアングル(ハイアングル傾向)が8割を占める。
    • このような症例では、A点・B点を出すような治療方針ではなく、上顎前歯を舌
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