講演1: 埋伏歯・異所萌出歯の矯正治療(発表者1)
導入と自己紹介 * TPO大会、Dean、Mathias、Angelへの感謝。TPOは最も好きな学会の一つで、2021年から参加。 * 発表者: スペイン在住の矯正専門歯科医。マドリッドの南1時間にある多分野診療所の矯正部門長。
上顎犬歯の埋伏について * 概要: 智歯に次いで2番目に多く埋伏する歯。歯列弓内で最後に萌出する。 * 発生率: 1.38%。 * 両側性埋伏: 8%のケースで発生。 * 口蓋側埋伏: 66%のケースで発生。 * 病因: * 唇側埋伏: 上顎歯列弓のスペース不足 (Archless discrepancies)。 * 口蓋側埋伏 (66%のケース): * ガイダンス理論 (Guidance theory) * 遺伝的理論 (Genetic theory) * 主要な原因として、側切歯の傾斜角度の変化、小臼歯、または側切歯の無形成が犬歯の萌出経路を逸脱させる。
混合歯列での治療計画 * 増殖性感染症(proliferative infection)を混合歯列で発見した場合: 1. 第一乳臼歯(Baby B)を抜歯。 2. 上顎第一小臼歯の萌出を待つ。 3. 乳犬歯を抜歯。 4. 歯列拡大と、側切歯の歯根保持方法の見直し。 * 異所萌出・埋伏歯は常に複雑な治療計画が必要。 * スペースの確保、外科的治療アプローチの慎重な計画。 * 自然治癒はないため、常に能動的な治療が必要。
予後 * Ericsson & Goulartによる予後判断基準: * アルファ角(犬歯の歯軸と咬合平面がなす角)。 * 犬歯の埋伏位置の高さ。 * 正中線への近さ。 * アルファ角が大きく、犬歯の位置が高く、正中線に近いほど予後不良。 * 側切歯の歯根吸収リスク: 犬歯が側切歯の歯根尖を越えると最大50%まで増加 (セクター2またはセクター1の場合)。
バイオメカニクスとアライナーを用いた牽引 * 従来の治療法: レバーアーム、セクショナルワイヤー、コイルバネ、パワーチェーン(バリスタループは15年前のお気に入り)。 * 現代の治療法: Dr. ManberryとDr. Castro Florioの論文に基づき、アライナーを用いた牽引が可能。 * アライナー使用時の牽引手順: 1. 自家歯牙移植 (autotransplantation) か牽引か決定。 2. 隣接歯根から犬歯を遠ざけるため、パッド、レバーアーム、またはコイルバネを使用。 3. 3D計画 (3D control) で埋伏部に拡大スペースを作成。 4. 隣接歯の歯根移動をオーバーエンジニアリング: 側切歯に遠心歯根傾斜トルクをかけ、犬歯の萌出経路から避ける。 5. アライナーで犬歯を覆えるようになったら、適切なトルクを付与: * 口蓋側埋伏: 頬側トルク (buccal torque)。 * 唇側埋伏: 舌側トルク (lingual torque)。 * 犬歯を切歯から遠ざけるために、ポップアップレバー(犬歯とミニスクリュー間の距離より3mm短い)またはシンプルなコイルバネを使用。
学際的アプローチ(口蓋側埋伏の場合) 1. 犬歯の歯冠全体を解放: 犬歯の歯冠は歯根膜に覆われていないため、骨リモデリングの特性を持たない。歯冠を解放しないと萌出しない。 2. 自家移植術 (autonomic technique) の適用: 10日ごとに交換するステロイド局所投与。 3. 露出段階: 犬歯が表層になるまでボタンやブラケットは装着しない。 4. 牽引開始: 犬歯が表層になったらパッド、コイルバネ、またはカンチレバーを装着し、犬歯を切歯から遠ざける。 5. アライナーとアンカーボタン (Angel button) の使用: 犬歯が唇側に移動する適切な位置になったら、アライナーとアンカーボタンを使用し、隣接歯への副作用なく歯列弓内に誘導。 6. 力の制御: ゴムの力は30-60グラム(1-2オンス)以下に抑える。歯根膜の血管閉塞を防ぎ、犬歯の吸収を避け、良好な移動を促すため。 * 具体的な方法: * 前歯にパイプバンプを設置し、犬歯の唇側移動中の干渉を除去。 * 側切歯と小臼歯にアンカーボタンを装着。 * アライナーで低速度の頬側トルクを与えながら、ゴムとアンカーボタンで犬歯を唇側へ移動。
症例紹介1: 口蓋側埋伏(Mark氏、45歳女性) * 初期状態: 骨格性Class III、左側下顎偏位、23番(左上犬歯)口蓋側埋伏。下顎左側臼歯部のスマイルラインが大きい、31番(右下切歯)歯肉退縮、63番(左上乳犬歯)残存。 * 複雑性基準: 炎症、犬歯はセクター2だが深さはそれほどない。上顎切歯の舌側傾斜を伴う骨格性Class III。 * 治療目標: 犬歯の牽引、Class IIIの改善。 * 治療計画: * 牽引方法: 舌側セクショナルワイヤーと下顎歯列に連結した顎間ゴム。 * 上顎: 差動固定による拡大(右側を固定源として左側を拡大し、埋伏犬歯のスペースを作成)。 * 下顎: 第三象限の遠心移動のためのダブルジグザグメカニクス、上顎犬歯牽引用の顎間ゴムを連結。 * 歯肉退縮の修正: 31番に舌側歯根トルク、後退、IPR (3-3)。 * 治療経過: 乳犬歯抜歯後、セクショナルと顎間ゴムで牽引開始。犬歯が口腔内に現れたら再スキャンしアライナーで仕上げ。 * 最終結果: 31番の歯肉退縮も改善、側切歯の歯根吸収なし、良好な犬歯の位置、正中線の合致。
症例紹介2: 唇側埋伏(Esther氏) * 初期状態: 主訴は上顎正中線の偏位。主要問題は13番(右上犬歯)の唇側埋伏。下顎の右側偏位、非対称な口角挙上、上顎正中線の右への傾斜。 * 口腔内所見: 右側完全Class II、左側不完全Class II。13番が側切歯の上に埋伏。下顎の叢生、歯肉が非常に薄い。 * 治療計画: 第一小臼歯抜歯を提案したが拒否。親知らず抜歯でスペースを確保し、上顎の遠心移動を行う。 * 複雑性基準: 短頭症、下顎切歯の極端な唇側傾斜。 * 治療目標: 上顎両側象限の逐次遠心移動、上顎正中線の顔貌との一致、咬合平面の水平化。下顎IPRと第四象限の遠心移動。 * 上顎: 半逐次遠心移動。頬骨下縁に2つのミニスクリューアンカー (infrasigomatic TADs)。右側は犬歯牽引用のレバーアーム固定源。左側はアンカーと上顎正中線の左側への移動。 * 下顎: 第三象限を固定源として第四象限の拡大と遠心移動。その後、IPR (3-3)と第三象限の拡大。 * 治療経過: 半逐次遠心移動。6番にスペースができたら頬骨下縁にパッドを設置し、レバーアームで犬歯を側切歯の歯根から遠ざける(後方、下方、外方への活性化)。 * 牽引: パワーチェーンで犬歯を牽引し、側切歯の歯根から離れたら再スキャンし、アライナーで覆い、低速度で移動。 * 最終結果: 正中線の合致、咬合平面の水平化、13番の牽引、Class I咬合。側切歯の歯根にダメージなし。
症例紹介3: 臼歯の埋伏(Carmen氏、10歳) * 初期状態: 37番(左下第二大臼歯)、47番(右下第二大臼歯)、35番(左下第二小臼歯)の埋伏、25番(左上第二小臼歯)の異所萌出。深い咬合、下顎正中線の右側偏位、43番、44番のスペース不足。25番は歯冠が小さくアライナーで移動できない。 * 治療計画: 1. 第一期治療(上顎): 遠心移動、拡大、異所萌出小臼歯のためのスペース作成。 2. 25番の牽引: Locatelli (014 Cooper Nitide) を唇側と口蓋側に使用し、4ヶ月で唇側へ移動。 3. 第二期治療(下顎大臼歯の牽引): * ラムスレンズにミニスクリュー (TAD) を設置(軟組織が厚いため12-14mmの長さが必要)。 * 乳臼歯抜歯、親知らずの歯胚抜歯。 * 37番の外科的露出時に軽度の亜脱臼を行う。35番のスペース保持のためのセクショナル。 * ラムスレンズにTADを設置し、パワーチェーンで毎週垂直牽引。 * 6ヶ月で埋伏は解決、35番も垂直化。 * 35番の歯根形成が未熟なため、6ヶ月間休止。その後治療を継続。 * 最終結果: 咬合の改善、大臼歯・小臼歯の垂直化。
症例紹介4: 上顎中切歯の埋伏(10歳男児) * 初期状態: 11番、21番の埋伏。13番、23番の埋伏。Class III、左側単側性交叉咬合。 * 治療原則: 早期治療が歯根形成を促進し、歯槽骨吸収のリスクを低減。 * 牽引方法: アンカースクリュー (TAD) の代わりにアンカーボタン (Angel button) を使用し、よりシンプルに牽引。 * 治療計画: 1. まず中切歯の牽引(犬歯牽引のための固定源として)。 2. アンカーボタンを口蓋側と唇側に設置し、顎間ゴムで牽引。 3. 手術当日: チェーンと唇側から口蓋側アンカーボタンへのゴムを装着し、中切歯を骨内へ移動させながら挺出。 4. 交叉咬合の修正: 差動固定を用いた非対称的な拡大。 5. 中切歯の挺出: 2ヶ月半で交叉咬合を修正し、中切歯も萌出開始。5ヶ月で完全に萌出。 6. その後、中切歯に舌側歯根トルクをかけ、側切歯の歯根移動をオーバーエンジニアリングし、犬歯牽引に備える。 * 患者の状況: いじめの問題により、治療を一時中断。 * 結果: 5ヶ月間で顔貌の改善、交叉咬合の修正、複雑な2歯の単純な牽引を達成。
症例紹介5: 下顎犬歯の埋伏 * Irene氏のケース (33番転位): * 初期状態: 担当医の過失 (7歳時のパノラマレントゲンで犬歯が側切歯の歯根尖に近かったが、経過観察を怠った)。7年後、犬歯が完全に歯槽骨外に転位し、下顎切歯の前方に位置。歯根吸収のリスク大。 * 治療計画: 1. 下顎切歯に舌側歯根トルクを与え、歯根を牽引経路から遠ざける。 2. TADを設置し、パワーチェーンで4週ごとに慎重に活性化し、垂直位置に誘導。 3. 乳犬歯抜歯、アライナーでスペース作成、レバーアームで下顎犬歯の挺出。 4. 挺出後、唇側歯槽骨が不足していたため舌側へ傾斜。リファインメントで修正。 * 結果: 約3年かかったが、犬歯の最終位置は良好。下顎切歯にダメージなし。 * Alex氏のケース (10歳、43番転位): * 初期状態: 他院からの紹介。抜歯と将来のインプラントを提案されていた。犬歯の完全な転位。 * 治療選択: 牽引ではなく自家歯牙移植 (autotransplantation) を選択。 * 自家歯牙移植のメリット: 治療期間の短縮 (約半分)、患者体験の向上、高い成功率(歯根尖が開いているため)。失敗しても将来のインプラントのための骨が温存される。 * 手順: 1. 41番、42番の歯根を犬歯の外科部位から遠ざけるため、舌側歯根トルクを適用。 2. 4番の遠心移動でスペース作成。 3. ラボで根のないダミー犬歯と根のあるダミー犬歯を作成。 4. 矯正医は根のないダミー犬歯でソケットへの適合を試す。 5. 適合が良好になったら再スキャンし、リファインメントを依頼。 6. アライナーが届いた手術日に、外科医がドリルで歯槽窩を形成。根のあるダミー犬歯で適合を確認。 7. 本物の犬歯を数秒で歯槽窩に移植。 8. 唇側と舌側からリテーナーで固定し、アライナーを装着。 9. 2週間後にリテーナーを除去し、低速度で犬歯の移動を開始(癒着防止)。 * 結果: わずか18ヶ月で同様の難易度のケースを解決。
まとめ:持ち帰りメッセージ (Take Home Message) * 異所萌出・埋伏歯は、常に注意深い早期診断が必要。 * 混合歯列での早期診断が理想的であり、多くの埋伏を予防できる。 * 予防策: 乳歯抜歯、第一小臼歯萌出まで待機、乳犬歯抜歯、X線によるチェック。多くは自然萌出する。 * すでに埋伏が口腔内に存在するケースは、補助的テクニック(レバーアーム、ミニスクリュー、ロカテッリ、コイルバネ)を用いた複雑な治療計画が必要。 * 牽引中の力の方向と量を常に管理すること。 * 3D計画で埋伏部にスペースを作成し、隣接歯の歯根移動(例: 側切歯に遠心傾斜トルク)をオーバーエンジニアリングする。 * 犬歯をアライナーで覆えるようになったら: * 口蓋側埋伏: 唇側への移動中に頬側歯根トルクを適用。 * 唇側埋伏: 修正中に舌側歯根トルクを適用(良好な骨の位置を維持するため)。 * 水平アタッチメント (verbal to crystal) を使用して、犬歯の挺出と低速度移動を行う。 * 抜歯と自家歯牙移植の選択。自家歯牙移植は、治療期間を半分に短縮、唇側皮質骨の増加、患者体験の向上という多くのメリットがある。ただし、根管治療や癒着のリスクもある(歯根尖が閉じている場合に多い)。 * 発表で紹介された論文や3DデータはQRコードからダウンロード可能。 * 会場の参加者には、小冊子「Treatment from children to adults with aligner」をプレゼント。