顎関節症と全身アプローチ — 頸椎・筋肉マッサージとストレッチ実習

2025-11-03 2:15:42 seminar

導入:参加者の抱える課題と期待

(参加者A)口腔内環境へのアプローチだけでなく、矯正治療中に顎が痛くなったり、食いしばりやパラファンクションが起こったりする患者さんがいるのが悩みです。治療期間中に進行が悪くなるため、手立てが少なく、新しいアプローチを学びたいです。 (ワニー氏)ありがとうございます。矯正歯科からの依頼は多いです。「矯正を始めたら顎が痛くなった」「噛めない」「ゴールが分からなくなった」「正中どこ?」といった相談が多いですね。皆さんの役に立てると嬉しいです。 (参加者C)私は姿勢や前方頭位について勉強しています。自分自身がストレートネックで、この人は症状はないけど予備軍だな、という患者さんへのアプローチを知りたいです。 (ワニー氏)前方頭位はほとんどの人がなります。症状が出ていなければまだ良いですが、いずれ出てきます。子供からお年寄りまで、全ての人が罹患する可能性があります。加齢によって頸椎が曲がるため、さらにリスクが上がります。PGI(口腔顔面痛)に役立てればと思います。 (参加者A)全身となると際限なく広がりますが、歯科がどこまでやるべきか、その塩梅が難しいと感じています。 (ワニー氏)やりすぎると失敗することもあります。ただ、顎関節症と全身は絶対に関係あります。我々は頭頸部、この辺までをやって、後は専門家にお任せする形式が良いと思っていますが、ここ(頭頸部)を触ると下の姿勢も変わることがあります。その辺りをお伝えできればと思います。 (参加者D)顎関節周辺の姿勢を勉強しましたが、顎の状態と全身の因果関係をもう少し深く理解したいです。 (ワニー氏)今日は、僕らが施術する方法と、患者さん自身にストレッチしてもらう方法の2つを習得してもらいます。施術は整体のごく一部を使います。

講師自己紹介と講義の目的

(ワニー氏) * 専門分野: 元々口腔外科出身。大学院では神経伝達と筋肉の収縮を研究。ストレス負荷時の筋肉反応(Gタンパクの関与)について。 * 資格: コーチカウンセラー。 * 趣味: サイクリング(サイクリストは顎関節症や肩こり・首こりが多い)、カービング(石鹸彫刻)。高校時代に父親の解剖学の教材で歯牙彫刻を習得。 * 仕事: 某歯科医院のスタッフ教育(80人のスタッフをまとめる)。 * ワニ石の名前の由来: 日本書紀に登場する海運民族「ワニ族(宇佐族)」から。祖先が八幡宮を建立し、御神体を取りに行った帰りに船を燃やした石が「ワニ石」。虫歯封じの御利益がある。 * 講義の目的: 顎関節症の痛み、頭痛、首の痛みなど、バラバラな症状に対して一箇所で効果的なアプローチを見つけるため。西洋医学的アプローチで治らない患者さんを救う手立てを提供したい。 * 「東洋医学はエビデンスがないと言うけど、東洋医学は歴史が長いじゃないですか。歴史があるということは、何かしらのエビデンスがあるんだな。」 * 講師の経験: 副院長として様々なドクターから「治らない」と依頼されるケースを診る中で、西洋医学的アプローチの限界を感じ、整骨院や整体の先生と勉強会を重ね、独自のデータを収集。 * 咬筋を押すと痛い(右側が多い)。それを取る方法を見つけたら、既に書籍に書かれていたという経験談。

(参加者B: 工藤)大学教育が西洋医学中心だったため、歯科医師になってこのような勉強をする中で、患者さんやスタッフ、他のドクターに伝えることの難しさを感じています。今日の講義で解像度を上げて、「他の人が治せない症状を自分が治す」ことで証明していきたいです。3分くらいの施術で患者さんが「来てよかった」「目が開いた」「だるさが取れた」と感じられるようになりたいです。 (ワニー氏)治らない病気の一つに「舌痛症」があります。これは「気功」が関係しているんですよ。怪しいですが、気を流すとピリピリ感が消える。別の機会に。

顎関節症と全身の関連

  • 顎関節症の治療法の現状: 顎関節症には確立された治療法が少ない。
    • 自律訓練法、マウスピース(スプリント)、レーザー治療。
    • 鎮痛剤、パンピング、外科療法もあるが、効果が低いことが多い。
    • ほとんどの治療法はエビデンスレベルが低い。
    • 「治るっちゃ治るんだけど」という曖昧さがあるが、副作用が少ないため続けられている。
    • スプリントに関する論文もほとんどなく、エビデンスが乏しい。
  • 日本と海外の医療費:
    • 日本の医療費は非常に安い。
    • アメリカでは年間12,000ドル〜20,000ドル(約300万円)を歯科治療に使う。
    • 歯列矯正の費用は1回300ドル〜400ドルが一般的。
    • 日本では保険点数が低く、高額な治療が難しい。
  • 顎関節症の疫学データ:

    • 右側の咬筋に痛みがある人が多い。
    • 左側は育児中の母親(左手で子供を抱える)、中華料理店のシェフ(鍋を振る)、左利きの人に多い。
    • アングル2級の患者が多く、3級は少ない。
    • ストレートネックや猫背の人が多い。
    • 女性が男性より多い。
      • 理由: 男性より女性の方が筋肉量が少ない(特に僧帽筋)。
      • 頭の重さ(4〜5kg)を支える僧帽筋に負担がかかる。
      • 顎関節症のI型の痛みは、僧帽筋の関連痛であることが多い。
      • 僧帽筋が痛むと、咬筋や側頭筋に痛みが放散される。トリガーポイントの最も重要な部位。
  • ストレートネックと下顎の位置:

    • ストレートネックは頸椎3〜4番の間で曲がらず、まっすぐになっている状態。スマートフォンの影響が大きい。
    • 前方頭位になると下顎が後ろに引っ張られ、開口制限(開咬制限)が生じることがある。
    • 舌骨下筋群(胸骨舌骨筋、肩甲舌骨筋)が短縮し、下顎を後方に引っ張る。
    • サルの実験では、犬歯で噛む時と6番で噛む時で、頸椎にかかる圧力が異なる(反対側に負荷が分散する)。

治療の基本原則

  • ゴルジ腱器官:
    • 筋肉と腱の間にある圧力センサー。筋肉の断裂を防ぐ働きをする。
    • ここを圧迫すると「ヤバいです」という信号が出て、脊髄反射で筋肉が緩む。
    • 揉み返しは内出血を起こしている状態。撫でるだけで良い。秒速5cm(大工区の提唱)。
    • 筋肉にアプローチする際は、起始部から停止部へ撫でる。
    • 咀嚼筋は関連痛が多いため、直接マッサージすることは少ない(内側翼突筋を除く)。
  • オキシトシンの活用:
    • アロマテラピー(ラベンダー、ミント)によりリラックス効果を高めると、脳下垂体からオキシトシンが分泌され、筋肉の再生を促す。
    • 特にラベンダーには、血中・唾液中のオキシトシン増加の論文がある。

実技:施術とストレッチ

1. 姿勢矯正(セルフチェック)

  1. 立ち上がる。
  2. バスケットボールを持っているイメージで両手を持ち上げる。
  3. まず目だけでボールを追いかけ天井まで持ち上げる。
  4. 目だけで追えなくなったら、頭を動かし、ボールを天井まで持っていく。
  5. 手を下ろし、前を向く。この状態が正しい姿勢。
    • 重心が後ろにくる感じ。骨盤も立つ。
    • オペラ歌手もこの姿勢作りを実践している。
    • 目的:胸を張らせることで正しい姿勢を作る。

2. 頸部・上肢のストレッチ

  • 後頭直筋ストレッチ:
    1. 2本指で後頭部(凹んでいるところ)を押して、後ろに押し込む。
    2. もう片方の手で頭を掴み、前に回す。
    3. 手の力だけで頭を引っ張り、首は動かさない。
    4. メカニズム: 後頭直筋の短縮を改善し、姿勢を戻す。僧帽筋への影響も考慮。
  • 頸椎の触診:

    • 頸椎は7個。
    • 簡単な触診方法: 首を曲げ、最も曲がる箇所の上が3番、下が4番。
    • 環椎(1番)と軸椎(2番)は、後頭骨を引っ張っていくと当たる箇所。
    • 触診の際は、棘突起ではなく横突起を触る。
    • 「今日の午後のテーマは、1から7まで触りきること。」
  • YWTストレッチ: (論文あり)

    1. 手をYの字に広げ、肩甲骨を寄せるように後ろに伸ばす。(大胸筋のストレッチ)
    2. Wの字に肘を曲げ、肩甲骨を寄せるように後ろに伸ばす。
    3. Lの字(手を腰に当てる)で、肩甲骨を寄せるように後ろに伸ばす。
    4. Tの字(横に広げる)で、肩甲骨を寄せるように後ろに伸ばす。
    5. 各10秒程度。全て肩甲骨を寄せたまま行う。
    6. 「めちゃくちゃ痛い」という参加者の声あり。
  • 手首ストレッチ: (首にアプローチ)
    1. 親指の付け根を3本指で押さえる。
    2. そのままグーパーを30回繰り返す。
    3. 親指の爪の横と表裏をもみもみする。
    4. 手首の中央を3本指で押さえ、腕を前後にパタパタさせる。
    5. 症状がある側(右手)でやると良い。
  • 浮指改善ストレッチ:
    1. 靴下を脱ぎ、足の指に手の指をガシッと入れる。
    2. 足の指を上下に5回程度動かす。
    3. 浮指の子供の姿勢改善に効果あり。

3. 主要な筋肉へのアプローチ

(触診・マッサージ・ストレッチ)

  • 胸鎖乳突筋:
    • 触診: 耳の後ろ(乳様突起)から鎖骨・胸骨にかけて。表面と深層の2本の筋束がある。
    • マッサージ: 起始部から停止部へ、筋肉の繊維に沿って優しく撫でるように動かす。白い部分(骨)を触るイメージで。
      • 「痛んでいる方はカチカチの棒みたいになっている。」
    • 関連症状: 頭痛、目の疲れ、こめかみや目尻の痛み、耳の後ろの痛み、咬筋痛の増悪。
    • 患者さん向けストレッチ: 上を向き、斜め上を向く。
  • 斜角筋:
    • 胸鎖乳突筋の奥にある。頸椎2〜4番から鎖骨にかけて。
    • 関連症状: 自律神経症状(イライラ、過呼吸)、開口障害。
  • 僧帽筋:
    • 触診: 頭の後頭骨から始まり、鎖骨の端と肩甲骨上腕に付着する広範囲な筋肉。
    • マッサージ: 起始部(後頭骨の出っ張り)から停止部(鎖骨の端、肩甲骨上腕)にかけて撫でるように。
      • 「咬筋痛がある場合は、ここ(僧帽筋のトリガーポイント)を揉むと良い。」
      • 「触ると鉄板みたいになる。」
    • 関連症状: 咬筋の痛み(関連痛)。
    • 身体の軸足との関連: 寝た時の足の倒れる方向で軸足がわかる。軸足側の僧帽筋が緊張し、顎関節症の症状が出やすい。
  • 肩甲挙筋:
    • 触診: 肩甲骨の角から頸椎1〜3番。
    • マッサージ: 肩甲骨の角をグリグリと触る。
    • 関連症状: ショルダーバックをかける人など、肩が上がっている人に多い。
  • 板状筋:
    • 僧帽筋の下にある頸椎・胸椎から頭部に付着する筋肉。
    • 触診: 耳の後ろの出っ張りのちょい下あたり。
    • マッサージ: この辺りをマッサージすると気持ちいい。
    • 関連症状: 頭痛、歯髄炎を起こしている場合にここを押すと痛みが取れることがある(上顎7番の歯髄炎経験談)。
    • 患者さん向けストレッチ: 頭を抱えて、手の力だけで首を左右に回す(自分で首を動かさない)。
  • 後頭下筋群:

    • 後頭骨の出っ張りの下の凹んだ部分。
    • マッサージ: 入様突起から真ん中にかけて、横に動かす。非常にスッキリする。
    • 施術: 患者さんの頭の下に両手を差し込み、少し上方向に引っ張るように伸ばす。
    • 関連症状: 頭痛、目の疲れ、疲労感(痛みとして感じる人もいる)。
  • 咬筋:

    • 症状: 噛むと奥歯が痛い、歯がしみる、目が疲れる。
    • アプローチ: 基本的にはマッサージしない(僧帽筋を触ると痛みが取れるため)。
    • やりたい場合は舌骨と胸骨にアプローチ。
  • 内側翼突筋:
    • 夜中の食いしばりがある人に多い。耳の後ろの横が痛い。
    • マッサージ: 下顎角の内側(裏側)を直接アプローチ。
      • チアサイドでは、デンタルを打つところの前に指を入れ、口を開かない患者さんにも有効。
      • 外側(側頭筋)に手を当て、親指を裏側に当てて上下に揺らす(寝る前に10回)。
      • 「めちゃくちゃ痛いけど、口の開きが良くなる」「咬合が変わる」
  • 外側翼突筋:
    • 患者さん自身ではできない。
    • 施術: 上顎の結節の後ろ(翼突筋窩)を滑らせるように触れると、超痛い。
    • クリックのある患者さんにアプローチする。
  • 顎二腹筋:
    • 乳様突起の後ろから舌骨に向けて付着。
    • マッサージ: 乳様突起の後ろと、舌骨周辺を軽く圧迫しマッサージ。
    • 「顎二腹筋をポンポン叩くと、免疫細胞(好中球)が減るという論文がある。」
      • 炎症を起こしている人に有効。

鑑別診断と治療戦略

  1. 初診時の観察:
    • 歩き方、立ち方(足の向き)、開口量、頸部の状態を見る。
    • 「患者さんが入ってきたら、だいたい足元を見ています。」
  2. 触診による診断:
    • 咬筋: どちらが痛いか確認し、大まかな当たりをつける。
    • 僧帽筋: 痛い側の僧帽筋を触ると、硬さや張りがあることを確認。
    • 頸椎: 1番から7番まで触診し、硬さや動きの悪さを確認(例: 右1〜7番が硬い、左3番が硬い)。
    • 肩甲挙筋・側頭筋・内側翼突筋: 厚さの左右差や痛みの有無を確認。
      • 内側翼突筋が痛い場合は「食いしばってますね」と伝える。
    • トリガーポイント: 痛みの確認場所として使う。
  3. 治療手順(ワニー氏の方法):
    1. まず僧帽筋のマッサージから始める。
    2. 次に胸鎖乳突筋を緩める。ストレートネックの人は1回で治らないこともあるが、焦らず数回行うと緩む。
    3. 肩甲挙筋をマッサージ。
    4. 頸椎を触診しながらアプローチ。
    5. 咬筋の痛みが主訴の場合: 僧帽筋、頸椎にアプローチ。
    6. 口が開かない(ロックなし)場合: 舌骨下筋群、内側翼突筋のマッサージ、斜角筋のストレッチ、後頭下筋群アプローチ、頸椎(ストレートネック)にアプローチ。
    7. クリック・ロックがある場合: マッサージでフリーにした後、外側翼突筋をマッサージし、西川先生のマニピュレーションを行う。
  4. 患者さんへの指導:
    • 自宅でストレッチを継続してもらう(YWTストレッチ、手首ストレッチ、浮指改善ストレッチなど)。
    • 「患者さんが自分で首を回しちゃったりすると、咬合が出ないので、回さないでください。」

質疑応答・まとめ

(参加者)患者さんが咬筋が痛いと言ってきたら、まず僧帽筋、次に側頭筋、次に内側翼突筋の触診をして、トリガーポイントがあるか確認する、という流れですか? (ワニー氏)そうです。トリガーポイントがあったら、そこ以外のところを刺激して緩めてあげる。 (参加者)内側翼突筋だけ関連痛じゃないのはなぜですか? (ワニー氏)詳しい理由は分からないが、他の筋肉を緩めても内側翼突筋だけは痛みが残ることが多い。 (ワニー氏)実習は午後にもっと詳しくやります。 (参加者)ありがとうございました。グリグリ音がして怖かったですが、だんだん音も聞こえなくなり、勉強になりました。


録音日時: 2025-11-03 録音時間: 135:42